私が予防事業を構想した背景
▶︎ リハビリテーション提供体制の変化と「リハビリ難民」の増加
近年、医療提供体制の効率化を背景として、医療機関における在院日数の短縮が継続しています。その結果、退院後も継続的なリハビリテーション介入が必要であるにもかかわらず、十分な支援を受けられない患者が増加している現状があります。この背景には、疾患別リハビリテーションにおける算定日数上限の導入(2006年)、回復期リハビリテーション病棟の入院期間上限が原則150日へ短縮されたこと(2016年)、さらに要介護認定者に対する維持期リハビリテーションの外来継続が廃止されたこと(2018年)など、複数の医療・介護政策改定が影響しています。その結果、筋力や運動機能、ADLの改善余地を残したまま、必要なリハビリテーション機会を喪失し、自宅退院後に機能低下を進行させてしまう「リハビリ難民」が顕在化しました。介護保険制度(2000年)の創設により、在宅・地域でのリハビリテーション提供は一定程度拡充されました。しかし、2021年の介護保険改定で「科学的介護(LIFE等)を推進する」方針が明記された一方、現場では介入の質や支援体制の地域差が残存しており、リハビリ難民問題は依然として十分に解消されているとは言い難い状況です。このことは、要支援者および軽度要介護者の状態悪化が増加している点からも示唆されます。結果として、健康寿命と平均寿命の差、すなわち「介護を要する期間」は依然として大きく、2022年時点で男性約8.5年、女性約11.6年と報告されています。
▶︎ サルコペニアの概念拡張と「筋肉の健康」への注目
健康寿命延伸の観点から重要な課題の一つが、サルコペニア(骨格筋量と筋力低下を併存する状態)です。近年のアジア人における診断基準改定(AWGS 2025)では、適応年齢が50歳まで拡張されるとともに、疾病予防およびフレイル進行抑制を目的とした「筋肉の健康(muscle health)」を重視する方向性が示されました。このことから、サルコペニアは高齢者に限定された問題ではなく、働き盛り世代を含む幅広い世代における重大な健康課題として位置づけられつつあります。
以上の背景から、予防医療・予防介護の重要性は今後さらに高まると考えています。
▶︎ 『救活』という操作的定義
私は予防をより身近で実践可能な概念として社会実装するために、「救活」という造語を提唱しました。救活とは『心身機能の改善および維持、将来的に発生しうる疾病・外傷・要介護状態のリスク低減を目的として、仮に発症した場合でも重症化を抑制し、回復力(レジリエンス)を高めることを目指す、運動・栄養に関する評価、介入、助言、支援を包括した健康増進活動である』という操作的定義で、日常生活や社会活動における本人の「したい」を長期的に実現するための支援概念です。医療の原点は『救命』です。疫学転換が起きている日本の医療・介護には、休活は救命と同列で求められる時代に入りました。
▶︎ 体組成評価による健康リスクの可視化と行動変容支援
体重やBMIは健康評価の指標として有用である一方、身体組成の変化(筋肉量、体水分、脂肪量、骨量など)を反映しにくい側面があります。体組成測定により、体水分分布、骨格筋量、脂肪量、内臓脂肪面積などを把握することで、将来的な疾病リスクや要介護度悪化リスクを早期に捉えることが可能となります。さらに、得られたデータに基づき、運動および栄養の個別最適化を行うことで、対象者自身の健康認識の向上と行動変容を促進し、予防行動の定着に寄与できる可能性があります。
▶︎ 全世代のライフコースにおける予防支援の必要性
体組成測定および握力測定は、高齢者の介護予防領域に限らず、ライフコース全体を通じた健康支援に活用可能です。たとえば、国内で約340万人以上とされるがんサバイバーにおいては、位相角や細胞外水分比といった指標が生命予後や治療後の身体機能と関連する可能性が示唆されています。
また女性においては、18歳以降から閉経前までの身体活動量低下、骨格筋量や筋力低下、骨密度低下が、低栄養や低体重に起因する健康課題が注目されており(FUS 2025)、心身症状(耐糖能異常、抑うつ症状等)を含む多面的な課題が報告されています。閉経後はホルモン環境の変化に伴い、骨ミネラル密度低下(骨粗鬆症リスク)や内臓脂肪増加、インスリン抵抗性の上昇、さらに筋肉量減少との負の相互作用が顕在化しやすくなります。加えて低出生体重児における将来的な生活習慣病リスク増加(DOHaD仮説)など、発達期から成人期に至るまでの予防戦略が重要となっています。このように体組成評価は、世代や性別、疾患背景を問わず、健康課題を早期に捉えうる有用なツールであると考えています。
▶︎ シニア理学療法士としての価値創造と社会実装
人生100年時代における健康寿命延伸へ寄与する「信用財」となり得ると考えて、理学療法士として培ってきた臨床経験と評価・介入スキルを基盤とした社会実装可能な予防事業を63歳で展開しました。これまでの専門職としての経験を活かし、地域社会における予防支援モデルを構築・普及させることが、今後の価値創造につながると確信しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
フィットN+ 代表
理学療法士 中江 誠